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変形性股関節症とは
変形性股関節症は、股関節を構成する大腿骨頭と寛骨臼の軟骨が摩耗・破壊され、関節裂隙の狭小化や骨棘の形成などを伴う慢性変性疾患です。痛みや可動域制限をきたし、進行すると日常生活動作(歩行、階段昇降、着座・立位動作など)に支障を来します。
変形性股関節症の特徴
- 有病率:日本では高齢化に伴い増加傾向にあり、60歳以上で約10~20%、70歳以上では30%以上に股関節症状およびレントゲン像上の所見を認めると報告されています。
- 性差:女性に多い(男女比約1.5~2:1)。特に更年期以降の女性に増加。
- 年齢:加齢とともに発症率・進行率が上昇。
- リスク因子:
- 先天性股関節形成不全など先天的変形
- 股関節外傷・骨折後の二次性変形
- 肥満(体重増加による荷重増大)
- 過度のスポーツ活動や重労働
- 関節リウマチなどによる二次的破壊
変形性股関節症の進行過程
- 軟骨の摩耗・破壊
- 関節軟骨はヒアルロン酸やプロテオグリカンを含み、滑らかな運動を担う。過度の負荷や軟骨細胞の老化により摩耗が始まる。
- 関節裂隙の狭小化
- 軟骨がすり減ることで骨同士が近づき、レントゲンで関節裂隙が狭くなる。
- 骨棘の形成
- 骨の過剰修復反応として関節縁に骨棘(osteophyte)が形成され、さらに可動域制限や疼痛を増悪させる。
- 関節内炎症
- 軟骨破壊に伴う断片が関節包内で炎症を誘発し、滑膜炎を生じる。
変形性股関節症の症状
- 疼痛
- 患側股関節部、鼠径部、大腿前面に疼痛を自覚。
- 初期は「活動開始時痛」「動作終期痛」が主体で、進行すると安静時痛や夜間痛を伴うことも。
- 可動域制限
- 屈曲・外転・内旋の制限が顕著。靴下をはく、床に座るなどの日常動作が困難に。
- 跛行(はこう)
- 痛み逃がしや荷重回避のために体幹を傾けて歩く外側跛行や、股関節の可動域制限による短縮跛行がみられる。
- 筋力低下・筋萎縮
- 股関節周囲筋(中殿筋・大腿四頭筋など)が負荷回避で使用頻度が減り、筋力低下や筋萎縮を来す。
保存的治療(手術しない)
1 リハビリテーション
- 筋力強化訓練:中殿筋、大腰筋、大腿四頭筋を中心にアイソメトリック・アイソトニック運動。
- ストレッチ:大腿四頭筋、ハムストリングス、腸腰筋などの柔軟性改善。
- 歩行訓練:杖や歩行器の利用方法も指導。
2 装具療法
- 杖:荷重分散と痛み軽減のため、健側の手に持つのが基本。
- インソール・内反装具:股関節への負担を調整し、疼痛軽減を図る。
3 薬物療法
- NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬で疼痛緩和。長期使用時は消化管・腎機能への注意が必要。
- 軟骨保護薬:グルコサミン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸関節内注射など。
- 鎮痛補助薬:必要に応じて弱オピオイドや筋弛緩薬を併用。
4 物理療法・疼痛注射
- 温熱療法・超音波療法・低周波治療:疼痛緩和と血行促進に有効。
- ステロイド関節内注射:急性増悪期の滑膜炎に対して短期間疼痛を緩和。
手術的治療
1 人工股関節置換術
- 適応:保存的治療で改善不十分な疼痛・可動域制限・QOL低下例。
- アプローチ:後側方、前方、外側アプローチなど。術後の脱臼率や筋力回復に影響。
- インプラント:セメント固定型・非セメント型・ハイブリッド型。材料はチタン合金、セラミック、超高分子量ポリエチレン等。
- 利点:疼痛消失率約90%超、可動域改善、日常生活動作の回復。
2 関節温存手術
- 骨盤骨切り術:寛骨臼被覆を改善し、関節内荷重を分散。主に若年例で検討。
- 大腿骨頭回転骨切り術:大腿骨頭局所の荷重面を変えて寿命を延ばす。
術後管理・リハビリ
- 早期離床:手術翌日から荷重訓練を開始し、DVT予防と筋力維持を図る。
- 歩行訓練:術直後は杖歩行、数週間でステッキへ移行。
- 可動域訓練:屈曲・伸展・内外旋の可動域を徐々に拡大。
- 筋力強化:中殿筋、ハムストリング、大腿四頭筋を中心に実施。
- 退院後フォロー:術後1ヶ月で日常動作自立、3ヶ月で軽労作業・車の運転、半年で活動的スポーツの再開が目安。
合併症・注意点
- 感染症:深部感染予防に抗菌薬プロフィラキシス、無菌操作を厳守。
- 脱臼:術後3ヶ月以内は可動域制限を遵守。
- 深部静脈血栓症:抗凝固療法(低分子ヘパリン)、早期離床。
- 神経損傷:坐骨神経・大腿神経への注意。
- インプラントゆるみ:長期的なレントゲンフォロー。
予後・インプラント寿命
- インプラント寿命:平均15~20年。アクティブな若年者ではリビジョン手術率がやや高い。
- QOL改善:THA後の疼痛消失率は約90%超、ほとんどの患者でADL(日常生活動作)改善が得られる。
予防・セルフケア
- 適正体重の維持:体重負荷を軽減し、発症・進行リスクを低減。
- 適度な運動:水中歩行、ストレッチ、筋力トレーニングで関節周囲の支持力を保持。
- 日常動作の工夫:正座やあぐら、深いスクワットを避け、階段昇降は手すりを活用。
- 定期検診:腰痛や膝痛と合わせ、股関節のレントゲン検査で早期に変化を把握。
おわりに
変形性股関節症は加齢や負荷に伴って進行する疾患ですが、早期発見・早期介入で保存的治療により長期間にわたり痛みを抑え、生活の質を維持できるケースも少なくありません。一方で進行例では人工股関節置換術によって劇的に改善することが期待できるため、症状が強い場合や日常生活に支障が出ている場合には、一度専門医へご相談ください。