肩こりのようで肩こりではない?
肩から腕、手にかけて痛みやしびれ、だるさや冷感などの症状を感じる。それは『胸郭出口症候群』かもしれません。
腕や肩に症状が出るため、はじめは『肩こり』として認識されがちですが、筋肉の疲労が原因で起こる『肩こり』と違い、『胸郭出口症候群』は肩周辺の神経が圧迫されることによって起こります。
ここでは『胸郭出口症候群』が起こる原因と治療法、自分でできるケアについて解説していきます。
胸郭出口症候群とは?
胸郭出口症候群とは、首から腕にかけて出ている神経の束が圧迫されることによって起こる症状です。
この神経の束を『腕神経叢』(ワンシンケイソウ)と言います。腕神経叢は首の方から出て、筋肉と骨の隙間にあるいくつかのトンネルの中を通って指先までの動きを可能にしています。ですが、このトンネルには物理的に狭い空間がいくつかあり、動作によって圧迫を受けることがあります。胸郭出口症候群は、胸付近(胸郭)のトンネルの出口が何らかの原因で圧迫されることによって起こる症状なので『胸郭出口症候群』という名前が付けられました。
物理的にトンネルが狭くなり、神経が圧迫を受ける部位は主に以下の3か所です。
- 斜角筋症候群 (首の付け根)
- 肋鎖症候群 (鎖骨の下)
- 小胸筋症候群 (胸の前側)
いずれも神経や血管に圧迫を受ける場所が違うだけ痛みやしびれといった同じような症状があらわれます。
胸郭出口症候群の症状
胸郭出口症候群ははじめのうちは「肩こりのような症状」と感じる人もいます。しかし、肩こりは筋肉の疲労が原因で起こるのに対し、胸郭出口症候群は神経症状のため以下のような症状があらわれます。
- 腕から手先までの広範囲の痺れや痛み
- 腕のだるさ
- 腕にチクチクした感覚がある
- 首や肩に刺すような痛み
- 首や肩、指先にかけて冷感を感じる
- 手の蒼白感
- 握力の低下
- 不眠や頭痛などの症状 などです。
特に腕を挙げる動作において上肢や肩、肩甲骨周辺にしびれや痛みダルさを感じます。急性のケガなどではないので症状の出現は、徐々にゆっくりとあらわれてくることが多いです。
また、症状は常にあるわけではなく一定の動作や姿勢によってあらわれます。例えば、「腕を挙げた時だけ痛む」逆に「腕を下ろしていると痛む」などです。
胸郭出口症候群はなぜ起こるの?
もともとの原因として鎖骨と肋骨の隙間が狭かったり、神経が通っているトンネルが狭い事が挙げられます。
それに加え、日常生活で繰り返し行う動作が原因となり症状があらわれます。
原因となる動作とは?
- シャンプーやドライヤー、洗濯物干しなど腕を繰り返し高く挙げる動作
- 電車のつり革などに長時間つかまっている動作
- なで肩などのの不良姿勢や、それを無理に直そうとする行為
- ベンチプレスのような動きの過剰な筋トレ
- 腕をよく上に挙げるスポーツ(野球・バスケ・バレーボール・バトミントン など。)
- 日常的に姿勢の悪い人
胸郭出口症候群が起こりやすい人
胸付近の神経や血管が圧迫されたり引っ張られることで起こるため、なで肩の人に起こりやすいとされています。なぜかと言うと、なで肩の人は肩が下がっていることで鎖骨と肋骨の間隔が狭く、神経や血管が圧迫されやすいからです。
また、男性よりも女性に症状があらわれる傾向があります。
胸郭出口症候群になりやすい人は以下のような人です。
- なで肩や首の長い人
- 腕を使った力仕事の多い職業
- 美容師など腕を上げて作業することが多い人
- パソコンを使ったデスクワーク
- 姿勢が悪い人
胸郭出口症候群の診断はどう行う?
肩こりとして認識されがちな胸郭出口症候群ですが以下のテストを行うことで肩こりではないことがわかります。
肩こりは動作に関係なく肩周辺に痛みや重だるさを感じるのに対し、胸郭出口症候群はある一定の動作を行う事で痛みやしびれを感じます。
画像検査
レントゲン検査では脛肋(けいろく)という、飛び出した異常な骨がないかを調べます。脛肋は先天的に異常な骨が飛び出したものです。この脛肋によって痛みが発生することがあります。
また、鎖骨と肋骨の間隔が狭くなっていないかを確認します。
痛みの原因が他の疾患である可能性もあります。例えば『椎間板ヘルニア』や『頚椎症』などです。レントゲンを撮ることでその可能性を否定することが出来れば胸郭出口症候群である可能性は高くなります。
動作チェック
胸郭出口症候群かどうかのセルフチェックができます。道具は必要ありません。以下に簡単にできるチェック方法を4つ紹介します。
1、腕の痛い方に顔を向け、そのまま首を反らして深呼吸をする。
2、痛い方の腕で力こぶを作るような動作をする。
3、2の腕の状態を3分間維持できるかどうか。
4、胸を張って腕を伸ばしたまま腕をうしろに引く。
1~4の動作を行うことで普段とは異なる症状が発生する、腕が痛くなったりだるくなる、その他、脈が弱くなる・止まるなどしたら『胸郭出口症候群』である可能性があります。
胸郭出口症候群のセルフケア
姿勢を見直す
まずは姿勢の悪さが胸郭出口症候群を引き起こすため、良好な姿勢を保つことが大切です。
日常的に何気なく行っている動作から姿勢は崩れます。立っている時、座っている時など様々な場面で正しく整っている姿勢が理想です。
身体を温める
冷えている身体では血液の流れが悪くなります。
血液の流れが悪いことは様々な症状を引き起こすリスクとなります。特に胸郭出口症候群では、首肩周辺の血流の悪さが原因とされています。なで肩の人や首が長い人は特に、首周辺が冷えやすいため寒い時期はネックウォーマーやマフラーなどを使って首が冷えないようにしなしょう。
1日の終わりはシャワーだけで済まさず、湯船に浸かって全身を温めることが有効です。
十分な睡眠時間を確保する
寝ている間に細胞の働きが活発になり様々な症状の修復が行われます。睡眠時間が短いと身体の修復機能が十分に活躍できなくなり症状の悪化を招きます。肉体的にも精神的にも回復するために睡眠はとても大切です。
筋肉をリラックスさせるストレッチ
日常的なストレスによって肩が上がり過ぎたり下がり過ぎたりしていませんか?そんな時は、肩が自然な位置にキープできるよう首肩周りや腕や胸の筋肉をほぐすことが有効です。
猫背や巻き肩などの不良姿勢も胸郭出口症候群の原因となります。猫背や巻き肩の人は、背中や腕の筋肉も硬くなっていることも多いため、背中や腕の筋肉をほぐすストレッチが有効です。
ストレッチで筋肉を柔らかくすることで、神経や血管の圧迫を和らげることができます。
首周辺のストレッチ
肩周りのストレッチ
胸を広げるストレッチ
脇を伸ばすストレッチ
姿勢や生活習慣を整え胸郭出口症候群を予防する
どんな症状も日常生活で行っている何気ない動作が影響して起こります。
そのため、日常的に姿勢を整えたり筋肉の緊張を招かないように生活習慣を整えることが大切です。
胸郭出口症候群になってしまったら症状の緩和に努めると同時に悪化させないことが大切です。症状のある方は以下のような動作はなるべく避けましょう。
- リュックサックなどで重いものを背負わない
- 肩から上に重いものを持ち上げない
- 電車のつり革に掴まるなど腕を高い位置に長時間挙げたままにしない
- スマホやパソコンなど長時間同じ姿勢で使用しない
『鍼灸整骨院かまたき』で胸郭出口症候群を改善させる方法
整骨院で行う治療法は圧迫部位の痛みの緩和と保存療法が中心になります。
首の付け根にある斜角筋、鎖骨の下にある鎖骨下筋、胸の前側にある小胸筋に対してアプローチし、硬くなっている筋肉を緩め神経の圧迫を取り除きます。
電気療法
電気療法は、身体の中に流れている微弱な電流と同じような電気を、機械を使って流すことで組織の回復をはかる療法です。
痛みが強い場合は、動かす事で筋肉や関節がさらに炎症し痛みが増すことも考えられるためまずは電気療法を検討します。超音波などの電気による治療で筋肉の中の方に刺激を与ることで炎症が落ち着き痛みが和らぎます。また超音波の刺激によって神経症状の修復を促します。
骨格調整
筋肉の緊張がほぐれてきたら骨格を正しい位置に整えます。骨格の位置が整う事で肩周りに余計な負担がかからなくなり神経の圧迫が緩和されます。ほとんどの場合、骨格は1度調整しただけでは整いません。繰り返し行い、筋肉のアンバランスや姿勢の癖を改善することで正しい位置を維持できるようになります。
手技療法
手技とは、道具を一切用いることなく手の感覚だけで押したり揉んだりさすったりしながら行う施術のため、施術者の感覚や経験により技術にかなりの差が出ます。
症状の度合いに合わせて可動域の確認をしたり、筋肉の張りや硬さを見ながら、どの筋肉にアプローチすることが有効かを検討します。
普段の姿勢や生活習慣、過去のケガなどによって人それぞれ症状の発生のしかたは異なりるため、施術の範囲や施術方法は人それぞれ違ってきます。
手技療法と合わせて、筋肉を柔らかくし整えた骨格を維持するためのストレッチや筋トレなどのトレーニングも行っていきます。
鍼治療
髪の毛よりも細い鍼を使い、症状が出ている原因に対してツボを刺激することで症状の回復をはかります。
ツボと言っても「胸郭出口症候群を治すツボはここだ!!」と完全に言い切れるツボはありません。首や肩、背中や腕など症状があらわれている部分は触ると硬くなっています。この硬くなっている部分のツボを鍼で刺激します。
胸郭出口症候群の主なツボ
- 首の付け根・・・頬車(きょうしゃ) 天窓(てんそう)
- 鎖骨周辺 ・・・雲門(うんもん) 欠盆(けつぼん)
- 胸の前側 ・・・中府(ちゅうふ) 雲門(うんもん)
上記のツボの他にも、胸郭出口症候群に有効なツボはあります。胸郭出口症候群の症状があらわれる部位も人それぞれ違っています。肩こりのような症状から腕や背中まで痛みやしびれを感じる人もいます。
鍼を行う範囲や、鍼を何本使うかなどは特に決まりは設けておらず、症状や状態に合わせて反応を見ながら行っていきます。
『手技療法』と『鍼治療』どっちがいいの?
よく「鍼とマッサージどっちが効きますか?」と言う質問をされます。
難しい質問です。
手技は、症状が出て硬くなっている筋肉に対し、外側から手や指を使って押したり揉んだりすることで刺激を与え、筋肉の緊張を取り除き症状の改善をはかる施術です。筋肉の硬さや痛みの反応を見ながら行うため手技を好まれる方は非常に多いです。
しかし、1度で刺激できる範囲を考えると手技には限界があります。
手技によって皮膚の外側から筋肉を押して刺激できる深さはせいぜい数ミリ程度だからです。
一方、鍼治療では数ミリ~数センチの深さまで、症状に合わせて刺激する深さを調整することができます。従って、小さなツボに刺激を与えるためには手技よりも鍼の方が断然治療効果が高いと言えます。
しかし、鍼に対して恐怖心がある方は、筋肉が硬直してしまい逆効果になる場合もあるため、鍼はオススメしません。鍼より治療効果が低いとは言え、手技でもやり方次第で十分改善が見込まれますので、より自分に合った方を選択してください。
重症の場合や整骨院で回復が見込めない場合
胸郭出口症候群は重症化すると腕や手に力が入らなくなります。その場合、姿勢の改善や筋肉をほぐす施術を行うだけでは症状の改善は望めません。
重症な場合や整骨院で治療を行ってもなかなか改善がみられない場合には手術が必要となる可能性があります。
手術では、狭くなった胸郭出口を広げる施術を行います。肋骨や鎖骨を一部削るなどして、神経が通るトンネルの隙間を開け、神経や血管の圧迫を和らげます。
手術は身体にメスを入れるため、身体への負担も大きく、リハビリなども含めると治療が長期化します。首や肩に違和感を感じたらなるべく重症化しないうちに病院や治療院に相談することが大切です。