
踵(かかと)のスポーツ障害を防ぐ——今日からできる実践ガイド
スポーツの現場で「踵が痛い」と訴えるケースは少なくありません。成長期の選手に多いセーバー病(踵骨骨端症)、ランナーやジャンパーに多い足底腱膜炎、アキレス腱付着部のトラブル、ハグルンド変形周囲の炎症など、原因や年代によって病態はさまざまです。しかし予防の原則は共通しています。本記事では、踵の基本構造からリスク要因、セルフチェック、ストレッチ・筋トレ・テーピング・シューズ選び、練習設計、復帰の基準まで、現場で再現しやすい形でまとめました。部活・クラブチームの指導者、保護者、ご本人のセルフケアに役立ててください。
- 1 1. 踵の基本構造と“負担のかかるポイント”
- 2 2. よくある踵のスポーツ障害
- 3 3. 故障を呼びやすい「5つのリスク」
- 4 4. 30秒セルフチェック(週1回)
- 5 5. 予防ストレッチ(毎日/練習前後)
- 6 6. 予防のための筋力・協調性ドリル(週3回)
- 7 7. テーピングとセルフケア
- 8 8. シューズ選び・インソールの基本
- 9 9. 練習設計(量・強度・頻度・休養)
- 10 10. 成長期(小中学生)に特化した注意点
- 11 11. 痛みが出たときの初期対応(RICE+αの考え方)
- 12 12. 競技復帰(RTP)チェックリスト
- 13 13. 1週間・予防テンプレ(例)
- 14 14. よくあるQ&A
- 15 15. まとめ:今日から始める3つだけ
1. 踵の基本構造と“負担のかかるポイント”
- 踵骨(しょうこつ):体重と着地衝撃を受け止める“土台”。
- アキレス腱付着部:ふくらはぎ(下腿三頭筋)からの牽引ストレスが集まる。
- 足底腱膜:土踏まず(内側縦アーチ)を支える膜状組織。走跳で繰り返し伸張される。
- 踵骨後上方(ハグルンド部):硬いヒールカウンターや過度の摩擦で炎症を起こしやすい。
- 成長軟骨(骨端核):成長期は脆弱で、反復牽引や着地衝撃に弱い。
→ 着地衝撃 × 牽引ストレス × 摩擦が重なると故障リスクが跳ね上がります。
2. よくある踵のスポーツ障害
- セーバー病(踵骨骨端症)
- 小学校高学年〜中学生で多い。
- 痛む場所:踵の後下部(押すとズキッ)。
- 原因:成長軟骨に対するアキレス腱の牽引+繰り返す着地衝撃。
- 特徴:朝や練習再開時に痛い、つま先立ち・ダッシュ・ジャンプで悪化。
- 足底腱膜炎
- ランニング量の増加、硬い路面、扁平足/ハイアーチ、ふくらはぎの硬さが関与。
- 痛む場所:踵の前内側(足底の付け根)。起床直後の一歩目が痛い。
- アキレス腱付着部障害(付着部炎・滑液包炎 など)
- 坂道ダッシュ、スパイクの強い締め付け、可動域不足が関係。
- 踵の後上方に圧痛・腫れ、靴で擦れて悪化。
- ハグルンド部のトラブル
- かかと後上方の骨の出っ張り+硬いカウンターが摩擦。
- 靴を変える/当て布をするだけで改善することも多い。
3. 故障を呼びやすい「5つのリスク」
- 成長スパート期(身長が急に伸びた)
- トレーニングエラー(量・強度・頻度・休養の設計ミス)
- からだの準備不足(可動域↓、筋力バランス不良、体幹・股関節の協調性不足)
- シューズ・インソール不適合(劣化、サイズ不一致、ヒールカウンターの硬さ)
- 路面・環境(硬い路面、アップ不足、寒冷時の急な高強度)
原則:負担を「減らす(量・衝撃・摩擦)」×「耐える(柔軟性・筋力・アライメント)」の両面から整える。
4. 30秒セルフチェック(週1回)
- つま先立ち10回で踵に痛み/違和感が出る
- 片脚ジャンプ10回で痛みが出る
- ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)が硬い(壁ふくらはぎストレッチで膝伸ばし/曲げ各30秒がツラい)
- 起床直後の一歩目が痛い
- シューズのかかと外側が極端にすり減っている
- 身長が最近急に伸びた/練習量を急に増やした
→ 2項目以上該当は要ケア。メニュー調整と予防プログラムを優先。
5. 予防ストレッチ(毎日/練習前後)
5-1 ふくらはぎ(腓腹筋)ストレッチ
- 壁に両手。痛くない方を前、伸ばす方を後ろへ。
- 後ろ膝は伸ばす、踵は床にしっかり接地。
- 心地よい突っ張りで30秒 × 2セット × 両脚。
5-2 ヒラメ筋ストレッチ
- 5-1と同じ姿勢で後ろ膝を軽く曲げる。
- 踵を浮かさない。30秒 × 2セット。
5-3 足底腱膜ストレッチ
- 椅子に座り、足の指を反らす(母趾を中心)。
- 反対手で足底をさするように揉みほぐす。30秒 × 2セット。
5-4 ハムストリング&股関節前面
- 前屈・ランジで太もも裏/腸腰筋を伸ばす。
- 各30秒 × 2セット。
ポイント:練習前は軽め、練習後・入浴後はじっくり。反動はつけず“気持ちいい範囲”で。
6. 予防のための筋力・協調性ドリル(週3回)
6-1 カーフレイズ(踵上げ)
- 段差の縁に前足部を置き、ゆっくり上げ3秒・下ろし3秒。
- 膝伸ばし(腓腹筋):15回×2〜3セット。
- 膝曲げ(ヒラメ筋):15回×2セット。
- 痛みがある時は可動域小さめ/床でOK。
6-2 エキセントリック(ゆっくり下ろす)・カーフレイズ
- つま先立ちで2秒キープ → 5秒でゆっくり下ろす。
- 10〜12回×2セット。衝撃が少ない**“耐える力”**を強化。
6-3 タオルギャザー(足底筋)
- 床にタオルを敷き、足指で手前にたぐり寄せる。
- 片足1〜2分×1セット。土踏まずを育てる。
6-4 ヒップヒンジ & 体幹
- ヒップリフト(お尻上げ)15回×2セット。
- プランク30〜45秒×2セット。
- 股関節主導の動きが身につくと、踵の着地衝撃を全身で分散できる。
7. テーピングとセルフケア
7-1 足底腱膜サポート(簡易版)
- 踵から土踏まずに沿ってアンカー(非伸縮 or 伸縮テープ)。
- 母趾球〜小趾球をU字に橋渡しし、アーチを軽く支える。
- 最後に踵周囲を一周して固定。
※痛みが強い時の一時的サポートとして。皮膚トラブルに注意。
7-2 アキレス腱付着部の摩擦対策
- ヒールカップや踵用ゲルパッドを靴の内側に。
- 靴下の2枚履きで摩擦軽減。
- シューズの踵カウンターに当て布(市販カバー)も有効。
8. シューズ選び・インソールの基本
- サイズ:つま先に5〜10mmの余裕、踵は浮かないこと。
- ヒールカウンター:硬めで踵をしっかり保持。ただし当たりが強すぎれば別モデル。
- ミッドソール:適度なクッション。成長期・復帰期は厚め寄りを試す。
- ドロップ(踵高め):付着部トラブルや足底痛ではやや踵高めが楽なことも。
- インソール:アーチサポートの有無を試し履きで比較。土踏まずが潰れる/反り過ぎる感覚はNG。
- 寿命:部活で毎日使うなら3〜6か月で性能劣化(見た目が綺麗でもヘタる)。定期交換を。
9. 練習設計(量・強度・頻度・休養)
- 10%ルール:走行距離・ジャンプ回数などの週増加は10%以内を目安。
- 硬い路面→柔らかい路面へ切替(トラック・芝・土など)を活用。
- 練習内容の交互性:高衝撃日と低衝撃日(泳ぐ・バイク・上半身)を交互に。
- ウォームアップ:5〜10分の軽い有酸素+関節アクティブ可動域→ドリル。
- クールダウン:低強度ジョグやバイク5分+ストレッチ。
- 睡眠・栄養:成長期は睡眠時間最優先/タンパク質・鉄・カルシウム・ビタミンDを十分に。
10. 成長期(小中学生)に特化した注意点
- 痛みは“頑張りの証”ではない:セーバー病は無理をすると長引く。
- 痛みの再現動作(ダッシュ・ジャンプ・つま先立ち)で痛むなら練習メニューを即調整。
- 固定観念にとらわれない:長距離の本数を減らし、技術ドリルや上半身トレに置換。
- 学校の上履きも重要:踵のホールド性が弱いと、授業中にも刺激が続く。踵が抜けないものを。
11. 痛みが出たときの初期対応(RICE+αの考え方)
- 負荷コントロール:痛み再現動作を避ける。ジョグ→バイク・プールへ置換。
- 冷却:急性増悪時は10〜15分、皮膚を守りながら。慢性期は**温めて血流↑**が有効な場面も。
- 圧迫・挙上:腫れ感があれば弾性包帯で軽圧迫。
- モビリティ維持:痛みのない範囲で足関節の可動域体操。
- 翌日の痛みを評価:痛みが強くなる/広がるなら医療機関や専門家へ。
12. 競技復帰(RTP)チェックリスト

- 起床直後の一歩目の痛みがほぼ0〜軽度
- ふくらはぎストレッチ(膝伸ばし/曲げ)で左右差が小さい
- カーフレイズ20回×2セットで痛みなし
- 片脚ジャンプ20回で痛み0〜軽度・再現しない
- 段階的ドリル(ウォーク→ジョグ→ラン→カット→ダッシュ→ジャンプ)を48時間かけて進め、悪化なし
どれかに引っかかる場合は1段階戻す。焦らないほど再発は減ります。
13. 1週間・予防テンプレ(例)
- 月:低衝撃(技術・上半身)+ストレッチ
- 火:走跳メイン(量は標準)+カーフレイズ
- 水:オフ or バイク/プール+体幹
- 木:インターバル軽め+モビリティ
- 金:走跳やや抑え+ドリル(片脚着地・方向転換)
- 土:ゲーム形式(合計量を火より少なめに)
- 日:完全休養(散歩・ストレッチ・リカバリー)
※ 成長期の痛みが出た週はゲーム形式→技術練習に置換し、走跳ボリュームを30〜50%削減。
14. よくあるQ&A
Q1. 体重が重いと必ず踵を痛めますか?
A. 体重は一因ですが、着地動作・可動域・靴の影響がしばしば上回ります。股関節主導のラン動作とふくらはぎの柔軟性を優先的に。
Q2. 厚底シューズなら安心?
A. クッションは有利ですが、踵のホールドや前足部の安定も重要。競技特性と本人のアーチ形状で選び分けを。
Q3. インソールは全員必要?
A. 使って楽になる人/合わない人がいます。試し履きと走った感覚を必ず確認。
Q4. 痛みがゼロになるまで休むべき?
A. 完全休養が長すぎると筋力低下→再発リスク。痛みが出ない代替トレへ賢く置換し、段階的復帰を。
15. まとめ:今日から始める3つだけ
- 毎日:ふくらはぎストレッチ(膝伸ばし/曲げ 各30秒×2)+足底ケア
- 週3回:カーフレイズ(上げ下ろしゆっくり)+体幹
- 練習設計:週あたりのボリューム増は10%以内、硬い路面を避け、良いシューズを
踵のスポーツ障害は、適切な準備と負荷設計で多くが防げます。成長期は特に痛みを“無視しない”文化づくりが鍵。早めの調整と継続的なケアで、シーズンを通してベストパフォーマンスをめざしましょう。