踵(かかと)が痛いときの原因と対処法

踵(かかと)のスポーツ障害を防ぐ——今日からできる実践ガイド

スポーツの現場で「踵が痛い」と訴えるケースは少なくありません。成長期の選手に多いセーバー病(踵骨骨端症)、ランナーやジャンパーに多い足底腱膜炎アキレス腱付着部のトラブルハグルンド変形周囲の炎症など、原因や年代によって病態はさまざまです。しかし予防の原則は共通しています。本記事では、踵の基本構造からリスク要因、セルフチェック、ストレッチ・筋トレ・テーピング・シューズ選び、練習設計、復帰の基準まで、現場で再現しやすい形でまとめました。部活・クラブチームの指導者、保護者、ご本人のセルフケアに役立ててください。

1. 踵の基本構造と“負担のかかるポイント”

  • 踵骨(しょうこつ):体重と着地衝撃を受け止める“土台”。
  • アキレス腱付着部:ふくらはぎ(下腿三頭筋)からの牽引ストレスが集まる。
  • 足底腱膜:土踏まず(内側縦アーチ)を支える膜状組織。走跳で繰り返し伸張される。
  • 踵骨後上方(ハグルンド部):硬いヒールカウンターや過度の摩擦で炎症を起こしやすい。
  • 成長軟骨(骨端核):成長期は脆弱で、反復牽引や着地衝撃に弱い。

着地衝撃 × 牽引ストレス × 摩擦が重なると故障リスクが跳ね上がります。

2. よくある踵のスポーツ障害

  1. セーバー病(踵骨骨端症)
  • 小学校高学年〜中学生で多い。
  • 痛む場所:踵の後下部(押すとズキッ)。
  • 原因:成長軟骨に対するアキレス腱の牽引+繰り返す着地衝撃。
  • 特徴:朝や練習再開時に痛い、つま先立ち・ダッシュ・ジャンプで悪化。
  1. 足底腱膜炎
  • ランニング量の増加、硬い路面、扁平足/ハイアーチ、ふくらはぎの硬さが関与。
  • 痛む場所:踵の前内側(足底の付け根)。起床直後の一歩目が痛い。
  1. アキレス腱付着部障害(付着部炎・滑液包炎 など)
  • 坂道ダッシュ、スパイクの強い締め付け、可動域不足が関係。
  • 踵の後上方に圧痛・腫れ、靴で擦れて悪化。
  1. ハグルンド部のトラブル
  • かかと後上方の骨の出っ張り+硬いカウンターが摩擦。
  • 靴を変える/当て布をするだけで改善することも多い。

3. 故障を呼びやすい「5つのリスク」

  1. 成長スパート期(身長が急に伸びた)
  2. トレーニングエラー(量・強度・頻度・休養の設計ミス)
  3. からだの準備不足(可動域↓、筋力バランス不良、体幹・股関節の協調性不足)
  4. シューズ・インソール不適合(劣化、サイズ不一致、ヒールカウンターの硬さ)
  5. 路面・環境(硬い路面、アップ不足、寒冷時の急な高強度)

原則:負担を「減らす(量・衝撃・摩擦)」×「耐える(柔軟性・筋力・アライメント)」の両面から整える。

4. 30秒セルフチェック(週1回)

  • つま先立ち10回で踵に痛み/違和感が出る
  • 片脚ジャンプ10回で痛みが出る
  • ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)が硬い(壁ふくらはぎストレッチで膝伸ばし/曲げ各30秒がツラい)
  • 起床直後の一歩目が痛い
  • シューズのかかと外側が極端にすり減っている
  • 身長が最近急に伸びた/練習量を急に増やした

→ 2項目以上該当は要ケア。メニュー調整と予防プログラムを優先。

5. 予防ストレッチ(毎日/練習前後)

5-1 ふくらはぎ(腓腹筋)ストレッチ

  • 壁に両手。痛くない方を前、伸ばす方を後ろへ。
  • 後ろ膝は伸ばす、踵は床にしっかり接地
  • 心地よい突っ張りで30秒 × 2セット × 両脚

5-2 ヒラメ筋ストレッチ

  • 5-1と同じ姿勢で後ろ膝を軽く曲げる
  • 踵を浮かさない。30秒 × 2セット

5-3 足底腱膜ストレッチ

  • 椅子に座り、足の指を反らす(母趾を中心)。
  • 反対手で足底をさするように揉みほぐす。30秒 × 2セット

5-4 ハムストリング&股関節前面

  • 前屈・ランジで太もも裏/腸腰筋を伸ばす。
  • 30秒 × 2セット

ポイント:練習前は軽め、練習後・入浴後はじっくり。反動はつけず“気持ちいい範囲”で。

6. 予防のための筋力・協調性ドリル(週3回)

6-1 カーフレイズ(踵上げ)

  • 段差の縁に前足部を置き、ゆっくり上げ3秒・下ろし3秒
  • 膝伸ばし(腓腹筋):15回×2〜3セット。
  • 膝曲げ(ヒラメ筋):15回×2セット。
  • 痛みがある時は可動域小さめ/床でOK。

6-2 エキセントリック(ゆっくり下ろす)・カーフレイズ

  • つま先立ちで2秒キープ → 5秒でゆっくり下ろす
  • 10〜12回×2セット。衝撃が少ない**“耐える力”**を強化。

6-3 タオルギャザー(足底筋)

  • 床にタオルを敷き、足指で手前にたぐり寄せる
  • 片足1〜2分×1セット。土踏まずを育てる。

6-4 ヒップヒンジ & 体幹

  • ヒップリフト(お尻上げ)15回×2セット。
  • プランク30〜45秒×2セット。
  • 股関節主導の動きが身につくと、踵の着地衝撃を全身で分散できる。

7. テーピングとセルフケア

7-1 足底腱膜サポート(簡易版)

  1. 踵から土踏まずに沿ってアンカー(非伸縮 or 伸縮テープ)。
  2. 母趾球〜小趾球をU字に橋渡しし、アーチを軽く支える。
  3. 最後に踵周囲を一周して固定。
    ※痛みが強い時の一時的サポートとして。皮膚トラブルに注意。

7-2 アキレス腱付着部の摩擦対策

  • ヒールカップ踵用ゲルパッドを靴の内側に。
  • 靴下の2枚履きで摩擦軽減。
  • シューズの踵カウンターに当て布(市販カバー)も有効。

8. シューズ選び・インソールの基本

  • サイズ:つま先に5〜10mmの余裕、踵は浮かないこと。
  • ヒールカウンター:硬めで踵をしっかり保持。ただし当たりが強すぎれば別モデル。
  • ミッドソール:適度なクッション。成長期・復帰期は厚め寄りを試す。
  • ドロップ(踵高め):付着部トラブルや足底痛ではやや踵高めが楽なことも。
  • インソール:アーチサポートの有無を試し履きで比較。土踏まずが潰れる/反り過ぎる感覚はNG。
  • 寿命:部活で毎日使うなら3〜6か月で性能劣化(見た目が綺麗でもヘタる)。定期交換を。

9. 練習設計(量・強度・頻度・休養)

  • 10%ルール:走行距離・ジャンプ回数などの週増加は10%以内を目安。
  • 硬い路面→柔らかい路面へ切替(トラック・芝・土など)を活用。
  • 練習内容の交互性:高衝撃日と低衝撃日(泳ぐ・バイク・上半身)を交互に。
  • ウォームアップ:5〜10分の軽い有酸素+関節アクティブ可動域→ドリル。
  • クールダウン:低強度ジョグやバイク5分+ストレッチ。
  • 睡眠・栄養:成長期は睡眠時間最優先/タンパク質・鉄・カルシウム・ビタミンDを十分に。

10. 成長期(小中学生)に特化した注意点

  • 痛みは“頑張りの証”ではない:セーバー病は無理をすると長引く
  • 痛みの再現動作(ダッシュ・ジャンプ・つま先立ち)で痛むなら練習メニューを即調整
  • 固定観念にとらわれない:長距離の本数を減らし、技術ドリルや上半身トレに置換。
  • 学校の上履きも重要:踵のホールド性が弱いと、授業中にも刺激が続く。踵が抜けないものを。

11. 痛みが出たときの初期対応(RICE+αの考え方)

  1. 負荷コントロール:痛み再現動作を避ける。ジョグ→バイク・プールへ置換。
  2. 冷却:急性増悪時は10〜15分、皮膚を守りながら。慢性期は**温めて血流↑**が有効な場面も。
  3. 圧迫・挙上:腫れ感があれば弾性包帯で軽圧迫。
  4. モビリティ維持:痛みのない範囲で足関節の可動域体操
  5. 翌日の痛みを評価:痛みが強くなる/広がるなら医療機関や専門家へ。

12. 競技復帰(RTP)チェックリスト

サイトアイコン
  • 起床直後の一歩目の痛みがほぼ0〜軽度
  • ふくらはぎストレッチ(膝伸ばし/曲げ)で左右差が小さい
  • カーフレイズ20回×2セットで痛みなし
  • 片脚ジャンプ20回で痛み0〜軽度・再現しない
  • 段階的ドリル(ウォーク→ジョグ→ラン→カット→ダッシュ→ジャンプ)を48時間かけて進め、悪化なし

どれかに引っかかる場合は1段階戻す。焦らないほど再発は減ります。

13. 1週間・予防テンプレ(例)

  • :低衝撃(技術・上半身)+ストレッチ
  • :走跳メイン(量は標準)+カーフレイズ
  • :オフ or バイク/プール+体幹
  • :インターバル軽め+モビリティ
  • :走跳やや抑え+ドリル(片脚着地・方向転換)
  • :ゲーム形式(合計量を火より少なめに)
  • :完全休養(散歩・ストレッチ・リカバリー)

※ 成長期の痛みが出た週はゲーム形式→技術練習に置換し、走跳ボリュームを30〜50%削減

14. よくあるQ&A

Q1. 体重が重いと必ず踵を痛めますか?
A. 体重は一因ですが、着地動作・可動域・靴の影響がしばしば上回ります。股関節主導のラン動作ふくらはぎの柔軟性を優先的に。

Q2. 厚底シューズなら安心?
A. クッションは有利ですが、踵のホールド前足部の安定も重要。競技特性と本人のアーチ形状で選び分けを。

Q3. インソールは全員必要?
A. 使って楽になる人/合わない人がいます。試し履き走った感覚を必ず確認。

Q4. 痛みがゼロになるまで休むべき?
A. 完全休養が長すぎると筋力低下→再発リスク。痛みが出ない代替トレへ賢く置換し、段階的復帰を。

15. まとめ:今日から始める3つだけ

  1. 毎日:ふくらはぎストレッチ(膝伸ばし/曲げ 各30秒×2)+足底ケア
  2. 週3回:カーフレイズ(上げ下ろしゆっくり)+体幹
  3. 練習設計:週あたりのボリューム増は10%以内、硬い路面を避け、良いシューズを

踵のスポーツ障害は、適切な準備と負荷設計で多くが防げます。成長期は特に痛みを“無視しない”文化づくりが鍵。早めの調整と継続的なケアで、シーズンを通してベストパフォーマンスをめざしましょう。