手首を捻るような動作の際、手首の小指側に痛みを感じることがあれば『TFCC損傷』の可能性があります。
あまり聞き馴染みのない『TFCC損傷』ですが、日常的に誰しもがリスクを抱えており、少しでも異変を感じたら重症化する前に早期治療を行うことが大切です。
TFCC損傷とは?
TFCCは日本語で『三角線維軟骨複合体』と言います。
TFCCは手首の小指側に存在します。
手首は複雑な動きを可能にするために複数のパーツで構成されていますが、主な骨は、橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)という2つの骨です。その先に手根骨(しゅこんこつ)という骨があり、この複数の骨を支えるクッションの役割をしているものが三角線維軟骨です。
この軟骨や靭帯、腱などの構造を専門的に英語表現の頭文字を取ってTFCC(Triangular FibroCartilage Complex)と呼びます。
TFCCの役割は、小指側の手首を安定させることです。
三角線維軟骨があることをで加わる力を分散・吸収してくれる役割がありますが、手首を反らした状態で強い衝撃が加わったときなどにTFCCを損傷することがあります。
血管が増える?異常血管とは
TFCC損傷では痛みが強いところに不自然に異常な血管が増殖しています。
異常血管は通称『もやもや血管』とも言われ正常では見られない余分な血管です。
異常血管はMRI検査で発見することができます。
「なぜ血管が増える事で痛みを感じるのか?」と言うと、『人間の身体は血管と一緒に神経が増える』という仕組みがあるからです。そのためこの異常血管が痛みの原因ということになります。異常血管が確認されるような場合には安静にしていても自然回復は難しく、場合によっては手術が必要になります。
なぜ痛くなるの?
TFCCを損傷する主な原因は以下の通りです。
- 一過性の外傷(ケガ)
- 加齢
- 繰り返しの動作による負担
TFCC損傷は転倒などで地面に手をついた時などの衝撃による、一過性の外傷『ケガ』が一般的です。
また、『加齢』によりTFCCが弱くなることで組織が炎症しやすくなり痛みが発生することも考えられます。
その他、スポーツによる損傷もあります。テニスの素振りやゴルフのスイングのように繰り返し行う動作の多いスポーツをしている人にTFCC損傷が多くみられます。
しかし厄介なのは、特に思いあたる節がないにも関わらずにTFCC損傷を起こしている人が多いという点です。
そのため、明らかに手首に負担がかかる人だけがTFCC損傷になるわけではなく加齢や日常生活などにおいて誰しもがTFCCを損傷するリスクがあるという事です。
どうやって検査するの?
手首は、靭帯や軟骨が多いためレントゲン(X線)検査では判断がつきにくいという特徴があります。
MRI検査
TFCCの検査ではMRI検査を用いられることが多いです。
しかし、MRI検査で異常が見つかっても痛みを感じていない人もいます。特に痛みがない若い人でレントゲンを撮ってみるとTFCCに変容が見つかる人は多く存在します。
このようにTFCCは無症状でも変容が認められることもあるため、MRI検査だけでは痛みの原因を誤診してしまう可能性があります。
診察
そこで、TFCCの検査では触診や問診などの診察がとても重要となります。
手首腫れの確認
どの動きが痛むのか?
押したときに痛む場所はどこか?
手首の安定性
手首の可動域
診察では以上のようなポイントを確認していきます。
なかなか治まらない痛み
もし、TFCC損傷と診断され治療を行っているにも関わらず痛みが長期間改善しない場合は、画像診断で見つかった変容箇所とは違う場所に痛みの原因があることも考えらます。
そのような場合には、セカンドオピニオンを視野に入れてみることもおすすめです。
どんな症状があるの?
代表的な症状は『手首の小指側への痛み』です。以下のような動きをした際に痛みを感じたらTFCC損傷の可能性があります。
- ドアノブを回すとき小指側が痛む
- タオルを絞るとき小指側が痛む
- 手首を小指側に倒すと痛む
- 手首を捻ると小指側が痛む
以上のような動きをしたとき、手首の『小指側』に痛みが強く出ることが特徴的です。
また、三角線維軟骨複合体の場所でもある手首の小指側を押すことで痛みを感じることがあります。
その他、『手首の抜け感』を感じる人もいます。抜け感とは分かりづらいかもしれませんが「なんとなく手首がうまくハマっていない感じ」という表現をされます。
症状が悪化してしまうと手首を使っていない時でも痛みを感じるようになったり、手首が腫れたり、可動域が狭くなる可能性もあります。
TFCCは自然に治る?
一過性の外傷の場合や、痛みの程度が軽度であれば回復が見込めますが、異常血管ができてしまっている場合には安静にしたり、セルフケアを行っても回復が見込めない場合もあります。
安静にしていても痛みが落ち着かなかったり、徐々に痛みが強くなってくる場合には一度診察してもらうことをおすすめします。
痛みの程度が強い場合や、なかなか症状が改善しない場合は最終手段として『手術』を検討する必要があります。
治療院へ行く目安
- 痛みが強い
- 安静にしていても痛みが落ち着かない
- 痛めた原因が明確ではない
- 痛くなったり治まったりを何度も繰り返している
以上のような場合には一度、整形外科や整骨院への受診をおすすめします。
特に、痛みを何度も繰り返しているような場合は、日常的に手首に負担がかかる行動や動作があると考えられます。受診することで負担がかかる動作を見直すきっかけにもなります。
また、何度も痛みを発生していることにより、知らず知らずのうちに手首の可動域が狭くなってきている可能性もあるため一度きちんと診察を受けましょう。
どのくらいで治る?
ケガの程度が軽度であれば少し安静にすることで徐々に痛みが落ち着いてくることもあるでしょう。痛めた直後は炎症が広がらないようにアイシングするのも効果的です。
痛みが軽度の場合はセルフケアでもみほぐしたり温めて血流の流れを良くすることも有効であり、安静にすることで1ヶ月ほどで回復がも込めます。
しかし、手首を完全に固定することはかなり難しいため、安静にしつつ日常的に使っていくことになるでしょう。そのような場合でも異常血管などの症状がなければ、3か月ほどで回復してきます。
安静にすることで痛みが落ち着いたとしても、痛みの炎症が治まっただけで、TFCCの損傷部分が治ったわけではありません。
まずは痛みを繰り返さないこと、そして可動域が狭くならないことを考えてしっかり治療することが大切です。
自分でなんとかできない?【セルフケア】について
TFCC損傷において初期の段階ではセルフケアも効果的です。
TFCC損傷では、手首の小指側への負担を減らすことが大切です。
セルフケアでは、使い過ぎによって硬くなっている筋肉をほぐし血液の流れを良くしていきます。
異常血管がある場合は余分な血管を死滅させます。
1,肘から手首にかけて揉む
肘から手首にかけて腕全体をマッサージし腕の筋肉の柔軟性を高めていきます。この時、早く良くなりたいからとグリグリ強く押すことは逆効果です。
腕の筋肉がリラックスする程度に軽く心地よい強さで行いましょう。
2,腕の外側の筋肉をほぐす
特に負担のかかっている腕の外側の筋肉を、軽くつまんだり押したりして筋肉の動きを良くしていきます。
3、手のひらのマッサージ
手首から手のひらにかけて、手のひら全体を反対の手の親指で軽く押して揉みほぐします。
痛い部分は優しくゆっくり行うことで徐々にほぐれていきます。
4、痛いところを圧迫する
異常血管が発生していると思われる部分は痛みが強く出ています。
この異常血管は圧迫し血流を止めることで死滅します。
圧迫方法は、痛いところを10秒~20秒優しくジッとただ圧迫します。
この時、揉んだり揺らしたりはしません。ただただ静かに圧迫するだけです。
これを朝晩1回ずつ行いましょう。むきになって1日に何度もやったり、力いっぱいやるのは逆効果です。
当院におけるTFCC損傷の治し方について
TFCC損傷は軽度のものから重度のものまであり、治療法が変わってきます。
このうち整骨院での治療で回復が認められるものは一過性の外傷のものや、症状がある程度軽度のものです。明らかに強い痛みがあらわれている場合は、異常血管が増えていることもあるため場合によっては手術が必要となります。不安なときは一度整形外科を受診されることをおすすめします。
しかしはじめからなんでも『手術』が必要なわけではありません。整形外科でも保存療法からすすめるのが一般的です。
まずは『手術以外』の方法で回復できるものがあるか検討していきましょう。
スプリント固定・サポーター固定
まずは使い過ぎによって炎症してしまった手首の動きを止めるために、スプリントという装具で固定をします。
固定する期間はおおよそ4~6週間程度です。
この期間は、日常生活では固定しつつ定期的に通院し『はりきゅう治療』や『電気療法』を組み合わせることでTFCCの炎症を早く落ち着かせるように促していきます。
スプリング固定を行ったのちに、状態を見ながら簡易的な手首サポーターへ切り替えていきます。
圧迫療法
異常血管ができている場合、その余分な血管を減らすことで症状が解消することが考えられます。
痛みのある場所、つまり異常血管ができている場所を圧迫することで余分な血管を死滅させます。
手技療法
痛みが徐々に緩和してきたら、本格的に手技療法を行っていきます。
手技療法では手首に負担がかかる動きをしている原因となる他の部位に対しても施術を行っていきます。
他の部位もケアすることは手首のみの施術を行うよりも効果的です。TFCC損傷部位の施術はもちろんのこと、前腕、上腕、手関節、肘関節、肩関節の調整などトータル的にケアしていきます。
リハビリ・ストレッチ療法
痛みの出ている手首周辺だけではなく、手首の動きにつながる首や肩周囲のストレッチやトレーニングは有効です。
リハビリはTFCC損傷の状態を確認しながら行っていくため、自己判断で指導されていない内容のトレーニングを行うことは症状が悪化してしまうリスクを伴います。
特にスポーツ競技をしている人は、早期復帰を目指して焦りも出てしまう時期ですがくれぐれも自己流のリハビリは行わないようにしましょう。
テーピング指導
本来は固定することが望ましいのですが手首を固定してしまうと日常的に生活が困難になります。そのため、回復まで1ヶ月~3か月ほどかかるTFCC損傷ではセルフケアによるテーピングが有効です。
テーピングは炎症期や回復期で変わってきますので、セルフケアできるよう指導を行っていきます。
最後に
TFCC損傷という聞きなれない名前ですが、誰しもにリスクのある症状です。
もし、ドアノブなどを回したときなどに手首の『小指側』に痛みがでる場合は、一度最寄りの専門施設へ相談してみてください。
早期発見・早期治療を行うことが早期改善への近道となります。