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変形性膝関節症とは
変形性膝関節症は、膝関節における軟骨の摩耗や関節周囲組織の変性によって生じる代表的な変性関節疾患です。加齢に伴う生理的変化の一部として発症リスクが高まりますが、肥満や膝関節への過負荷、外傷後の関節不安定性なども重要な誘因となります。進行すると軟骨がすり減り、骨と骨が直接こすれ合うことで疼痛や可動域制限が強くなり、日常生活に支障を来すようになります。
変形性膝関節症の症状経過
- 初期症状
- 起床時のこわばり:朝起きたときや長時間座っていた後に膝が硬く感じる。
- 動作開始痛:歩き始めや立ち上がりの瞬間にズキッと痛む。
- 間欠的な疼痛:運動や階段昇降後にのみ痛みが現れる。
- 進行期症状
- 持続的な疼痛:日常生活動作中に痛みが慢性的に続き、鎮痛薬を必要とする場合もある。
- 可動域制限:膝の伸展・屈曲が不十分となり、歩幅が狭くなる。
- 膝関節の変形:O脚(内反膝)やX脚(外反膝)など、膝の形状に変化が現れる。
- 関節水腫(いわゆる“水がたまる”):滑膜の炎症に伴い、膝が腫れて液体が溜まることがある。
- 末期症状
- 安静時痛:安静中や夜間にも痛みが強く、睡眠障害を来す。
- 筋萎縮:痛みによる運動回避で大腿四頭筋やハムストリングスが痩せ、関節の安定性がさらに低下する。
変形性膝関節症の原因とリスク因子
- 加齢:50歳以降に有病率が急増し、70歳以上では80%以上で何らかのX線所見を認めるとされる。
- 肥満:体重1kg増加につき膝関節への負荷は体重の3~4倍増加するといわれ、軟骨摩耗を促進。
- 反復的な過負荷:農作業や荷役、ランニングなど、膝に負担がかかる職業・スポーツ歴がある場合。
- 先天的・発育期異常:膝関節の形態異常や半月板損傷などがあると、関節への荷重分布が不均一となり摩耗が進む。
- 外傷後変形:骨折や靭帯損傷により関節のアライメント異常が残存すると、2次性の変形性膝関節症を発症しやすい。
変形性膝関節症の保存療法(手術しない)
- 生活指導・セルフケア
- 体重管理:減量により膝関節への荷重を軽減。BMI25以下を目標とする。
- 日常生活の工夫:膝に負担をかけない座り方・立ち方、階段昇降時のサポート具使用など。
- 薬物療法
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):痛みや炎症を緩和。内服または外用薬。
- ヒアルロン酸関節内注射:軟骨表面の潤滑改善や衝撃吸収能を高める。
- 栄養療法サプリメント:グルコサミン・コンドロイチン硫酸など。一定のエビデンスはあるが補助的と位置付けられる。
- 装具療法
- 膝サポーター:関節を補助し、荷重バランスを調整するオフローディング型サポーターが有用。
- インソール(足底板):膝のアライメントを矯正し、関節内の荷重分布を改善。
- 物理療法
- 温熱療法:血流改善・疼痛緩和。ホットパックや超音波温熱。
- 電気刺激療法:筋収縮を誘発して筋力低下を抑制。
- 低出力レーザー療法:炎症抑制・組織修復促進を図る場合がある。
- 運動療法・リハビリ
- 筋力強化運動:大腿四頭筋やハムストリングスを鍛え、膝関節の安定性を高める。
- ストレッチ:関節周囲の柔軟性を保ち、可動域維持を図る。
- バランス訓練:片脚立ちやバランスパッド上での運動で,膝支持機構を強化。
- 水中運動:浮力を利用し、関節への負担を減らした状態で運動できる。
変形性膝関節症の手術療法
- 関節鏡視下手術
- 半月板切除や滑膜切除など、関節鏡下で小侵襲に異常部位を処置。ただし根本治療にはならず、選択は慎重に。
- 高位脛骨骨切り術(HTO)
- O脚変形を矯正し、関節内の荷重分布を良好にすることで疼痛軽減を図る。比較的若年者に適応。
- 人工膝関節置換術(TKA)
- 末期関節症で日常生活支障が著しい場合に、損傷した関節面を金属・ポリエチレン製の人工関節に置換。高い疼痛軽減・機能改善効果が期待できるが、侵襲や感染リスクを伴う。
日常生活での注意点・予防策
- 適度な運動継続:ウォーキングや水中歩行など、膝に優しい有酸素運動を週3回以上行う。
- 筋力トレーニング:大腿四頭筋を中心に、低負荷・高回数で継続的に行う。
- 体重管理:食事のカロリーコントロールと運動習慣により減量を図り、膝への負荷を軽減。
- 靴選び:クッション性・安定性の高い靴を選び、インソールでアライメント調整を行う。
- バリアフリー:自宅内の段差解消や手すり設置で転倒リスクを減らす。
まとめ
変形性膝関節症は高齢化社会において増加が予想される疾患であり、早期診断と多角的なアプローチが鍵となります。保存療法を基本としつつ、症状や生活の質(QOL)に応じて物理療法や装具療法、そして必要に応じて手術療法を検討します。日常生活における体重管理や適度な運動の継続が予防・進行抑制に重要な役割を果たし、専門家(整形外科医・理学療法士・管理栄養士など)との連携が患者さんの自立した生活を支えます。腫れや痛みを感じたら我慢せず、早めに専門医を受診しましょう。